農村から都市が生まれるステップ-余剰農作物が都市を作る
(第1章:2/12)
今回は第1章の2回目(全12回)。前回は、歴史以前の時代(文明以前の時代)について考えました。この時代の2つのキーワードは「定住」と「農耕」でしたね。
さて今回は歴史を知る3つのキーワードの中の最初の2つ、「都市」と「文明」を説明します。基本的に文明は都市から生まれます。まずは都市がどのようにして生まれるのかを考えます。
歴史の解説を読まれる方はこちらに移動してください 記事の一覧トップ 古代オリエント史第1回:古代オリエント文明の概観
1.2 文明と都市の関係
ここでは文明と都市の関係について、以下の順序で説明します。
まず、文明とは何か、文明という言葉の定義を述べます。次に農村から「都市」がどのように生まれたのかを説明します。前の章でも解説した、都市と周辺の農村のネットワークがどのように生まれたのかにも注目してみてください。ここでウシが登場します。最後になぜ都市から文明が生まれるのかについて説明をします。
最初に文明の言葉の意味、定義をお伝えします。定義とは言葉の意味のことです。
「文明とは人種、言語、文化の違いを超えてそれらを一つにまとめる、人間(と人間の集団)の生活、表現、情報発信の様式のこと」上の説明を読んだだけではどういう意味か分かりませんね。ここでは文明の意味を理解するために、農村から都市が生まれる歴史の背景を考えます。
では農村から都市がどのように生まれたのか、そのいきさつ、過程を説明します。
1.2.1 農村から都市が生まれるステップ-余剰農作物が都市を作る
農村から都市が生まれるには、農作物が余るくらいに獲れる必要がありました。逆に言えば、余るくらいに多く獲れるようになったから都市が生まれた、と言えます。
前の記事では、人類にとって「農耕」が最大の革命、人間の生活を大幅に変えた出来事だった、と書きました。
農耕を始める前の人間は、いつ獲物がなくなるのか、いつもそれに怯える生活を強いられました。そして落ち着いて一つの場所にも住めません。
しかし農作物を植え、決まった季節に収穫が出来るようになると、どれくらいの食糧がいつ取れるのか予測が立ちます。決まった季節に決まった作業をすれば、以前よりも安心した生活が出来ます。
さらに農作物の収穫が増えると、それだけ人口も増え、農業以外の仕事をする人たちが生まれました。つまり、自分が作物を植えて育てなくても、食料を買って生きられる人たちが出来ました。これが都市と文明の始まりです。
収穫を増やすためにはどうする?
農作物の収穫が増えるために必要なことは、集団で作業をすること、次により広い土地を耕し、作物を植えられること、最後に計画的に耕作がなされることです。
前の記事の最後に、農耕を始めた人々は集まって住み、農村を築いた、と書きました。このように自然と集団が生まれました。
次により広い土地を耕す、という点については、人間が手作業で土を耕しても限界があります。人間以外の助けが必要でした。
ここで、人類にとって最も大切な動物「ウシ」の登場です。
ウシに鋤と呼ばれる道具を引かせ、土を耕すのに利用しました。鋤とは横に何本もの刃のようなものが付いた道具で、それを使って土を掘り起こすことが出来ました。
ウシに鋤を引かせることによって、人間の力だけで耕せる土地の何倍もの土地を耕すことが出来るようになりました。こうして農作物の収穫は飛躍的に増え、農民は自分たちが食べる以上の、余るくらいの農作物を収穫していきます。余った作物のことを余剰農作物といいます。
さらに、収穫を増やすために必要なことがあります。それは計画的に耕作を行うことです。
これはメソポタミア文明やエジプト文明が大きな川の近くに生まれたこととも関係があります。
作物を植える畑には水が必要です。農耕を始めた最初の頃には天から降り注ぐ雨水に頼るしかありませんでした(乾地農法)。
やがて大きな川と平野に恵まれた地域で、川から畑に水を引くようになりました。川からは幾つもの水路を使って水を引きます。このように水路から引いた水を使う農業のことを灌漑農業といいます。灌漑とは畑に人工的に水を引くことです。
そこで大規模な水路を維持、管理し、また新しい水路を作る専門の人材が必要になります。このような人たちは設備の管理や、水路を作る土木工事が専門の仕事になります。食物を生産する農作業には直接関わりません。
ではこのような農作業に関わらない専門職の人たちは、どのようにして食料を得るのでしょうか?
余った農作物、余剰農作物を分けてもらうしかありません。これが税金の始まりです。つまり、生産された農作物の一定の割合を、農村を維持するために働いている者たちに分け与えるのです。
余剰農作物で生活が豊かになり、都市が生まれる
余剰農作物が生まれることによって、それは様々な物と交換出来るようになりました。それに伴い、人間の生活のスタイル、様式がより豊かになりました。農作物を植えたり、動物を飼ってそれを食べる以上の生活をするようになりました。これが「文明」の始まりです。文明は人間の生活のパターンが豊かになることから始まります。
人間が必要とするものは人それぞれです。たとえば人間が生命を維持する上で塩、塩分は欠かせません。ならば海の水を汲んで、それを天日(太陽の光)にさらして、塩を作る専門職が必要です。塩を作る人は塩を売って食物と交換できます。また牧畜を専門にする人は、家畜の幾らかを肉にしたり、乳を搾ってチーズやバターなどの乳製品を作ったり、動物の皮からバッグを作ったり、またヒツジやヤギの毛を刈って、布を作ることが出来ます。
こうして人間は生産した物を周りに売れるようになりました。それからいろいろな売り物を交換できる市場が出来ました。市場が出来ればその周りにはお酒を振る舞う酒場、歌や踊りやお芝居を見せる小屋、そのような娯楽、楽しみ事のための施設もあったでしょう。
このようにして「都市」が誕生しました。都市は農村とは離れた場所にあり、周辺の農村、漁村からさまざまな人間を集める役割を果たします。同時に人と物に加えて、より多くの情報が都市へと集まります。情報は都市を発展させるために大切です。
この記事では文明と都市の関係について考えました。まず文明の定義(言葉の意味)を明らかにしました。次にどのようにして都市が生まれたのかを考えました。都市が生まれるために必要なものは作物が多く獲れ、余剰農作物が出来ることでした。
次の記事では、なぜ文明と呼ばれるものが都市から発生するのか、について考えます。文明という、聞いただけでは理解できない言葉が何を意味するのか、少しずつ見えてきます。