歴史のアンサンブルへようこそ

文明は都市から生まれる

(第1章:3/12)

今回は第1章の3回目(全12回)。これまで農耕が始まり、農作物の収穫が増えることにより都市が生まれた、ということを説明しました。

この記事では、なぜ都市から文明が生まれるのか、という問題を考えます。

歴史の解説を読まれる方はこちらに移動してください
記事の一覧トップ
古代オリエント史第1回:古代オリエント文明の概観

1.2.2 文明は都市から生まれる

都市の役割は主に2つあります。一つは周辺の農村を中心とした土地の管理、そしてもう一つはあらゆる物を交換できる場所、すなわち市場の役割です。

土地を管理する者たちはやがて専門職となり、その土地の役人となります。前の記事で触れましたが、役人たちは農民から幾らかの税金を集め(最初はお金ではなくて農作物を集めました)、それで生活をします。また、農作業の土地が整備されるようになると、土地が誰の物か、土地の境界はどこか、土地は誰が受け継ぐのか(相続するのか)、といった問題が生じます。そのような問題を裁判によって解決するのも役人の仕事になりました。

さらに都市に市場が生まれることによって、市場の周りには様々な施設が出来ます。前の記事で挙げた酒場や芝居小屋に加えて、都市の遺跡には公衆浴場なども見られます。お風呂屋さんですね。

都市は情報ネットワークの中心

市場を考える上で欠かせないのが、文字の使用です。文字は物を交換すること、つまり商取引を記録するために使われるようになりました。実用的な目的があったのです。

さらに重要なこととして、都市は情報のネットワークの中心、または中継地点となります。

例えばある都市で「隣の街は街がきれいに整備されていて、人も集まってきている。それで商い(商売)も活発になって、ますます人が増えているらしい」という情報(噂?)が流れたとします。また「3つ隣の街では新しい麦の品種が開発されて、厳しい気候でも良く育つらしい。周りの村では麦がたくさん獲れるようになって、街も豊かになったようだ」といった情報も流れたとします。

もしこれらの情報を聞いたならばどう反応するでしょうか?「街を整備し直すと人が集まるらしい。工事のために人を集めなくてはいけないが、やってみる価値はありそうだ」とか「よし、ならばその新しい麦の種を分けてもらって、それを育てようじゃないか」と思いませんか?

情報は発展のための原動力です。情報は人が集まる場所の方が集めやすく、様々な意見を戦わせることも出来るので、価値のある情報を選択して、それを生かすことが出来ます。都市は情報を集め、その情報を活かす場所でもあります。

加えて、都市は情報の発信基地でもあります。特に新しい生活スタイルの発信は重要です。

都市にあらゆる土地の人間を集めるには、その都市が美しく整備されていて、またそこに住む人々の生活が豊かで、おしゃれで魅力的でなければなりません。そこであらゆる都市で、街のスタイルや人々の生活のスタイルに磨きをかけるようになります。人が集まる場所の方が刺激も多いので、人々はより生活のスタイルを磨こうとします。このように自分や周りのスタイルに磨きをかけることを洗練といいます。まさしく都市は洗練されたスタイルを発信する場所でもあります。

文明は都市から生まれる

ではここで、この記事の最初に書いた文明の定義(意味)をもう一度見てみましょう。こう書きました。

「文明とは人種、言語、文化の違いを超えてそれらを一つにまとめる、人間(と人間の集団)の生活、表現、情報発信の様式のこと」

これは都市が持っている機能、都市が果たす役割、と言えます。都市はあらゆる人種、土地の人々を集めなくてはなりません。そのために、都市は人を集めるだけの魅力を持っていなければなりません。都市の魅力はその洗練された(磨き抜かれた)様式、スタイルから生まれます。

この記事では、なぜ文明が都市から生まれるのか、という問題を考えました。最後に文明の定義をもう一度振り返りました。文明とは何か、少しでもご理解いただけたならば嬉しいです。

次の記事では、都市と農村、都市と都市がどのようにつながり、ネットワークを作り上げるのかを見ていきます。

次の記事

「都市」から都市ネットワークへ

前の記事

余剰農作物が都市を作る