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帝国は文明を利用する

(第1章9/12)

今回は第1章の9回目(全12回)。これまで歴史を知る重要な3つのキーワード「都市」「文明」「帝国」について学びました。帝国を考察する最後として帝国と文明との関係を考えています。その初めに遊牧民がどのように帝国を作ったのかを見ました。

この記事では、様々な都市、農村を征服した帝国がなぜ文明を必要とし、それを利用するのかを見ていきます。

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古代オリエント史第1回:古代オリエント文明の概観

1.3.4.2 帝国は文明を利用する

文明とは何だったでしょうか?もう一度文明の定義(言葉の意味)を振り返ってみましょう。

「文明とは人種、言語、文化の違いを超えてそれらを一つにまとめる、人間(と人間の集団)の生活、表現、情報発信の様式のこと」

文明は都市から生まれました。そしてある都市の発信する人々の生活のスタイルや、洗練された都市のスタイルが周りの地域、都市にも伝わり、都市ネットワークを広い範囲でまとめる「文明圏」を形作りました。

文明とは、あらゆる人種や民族が見倣みならおうとする生活や集団のスタイルです。ですからあらゆる人種、民族を広い領土の中に抱える帝国は、文明と文明が発信するスタイルを統治の手段として利用します

また文明は帝国の権威を広めるためにも利用されます。例えば帝国の首都が壮大で、良く整備され、人々は豊かで、また他の場所では手に入らない珍しく貴重な物が手に入るとしたらどうでしょうか?こんな素晴らしい都を建てる王なのだから、帝国の王としてふさわしい、と思うはずです。

帝国は自らの権威を高めるために、首都を始めとするさまざまな都市を整備し、陶器や織物など仕上がりが細かく美しい品々を作る職人を招きました。

さらに帝国は世界中のあらゆる書物を集め、学問を盛んにします。さまざまな帝国の歴史を見ると分かりますが、帝国の全盛期には、世界中から一流の学者たちが帝国の首都、または学問が盛んな都市に集まります。

帝国が学問を盛んにするのは科学技術のレベル、水準を高めるという目的もあります。それによって、科学者または技術者(エンジニア)の交流が活発になり、同時に産業、いわゆる物作りが育成されます。とはいえ、帝国は強大な軍事力が背景にあります。いつの時代もそうですが、帝国が科学技術を高めようとするのは、軍事力を強化するためでもあります。

このようにして帝国は帝国の統治のために文明を利用します。また帝国の領土の広大なネットワークによってさまざまな文明が融合され、より広い範囲に影響力を持つ新しい文明を生み出します。帝国は文明のレベルを向上させることにも一役買います。

これまでのところで、帝国が文明を利用し、それを広める様子を見てきました。帝国の始まりは、圧倒的な軍事力で都市を襲撃する遊牧民たちでした。帝国の支配者たちは軍人の出身ですが、文明を利用するにつれて、文明の保護者になります。

帝国は強大な軍事力で様々な人種の国民を支配します。とはいえ国民は、その軍事力が作り出す安全な環境によって安心して生活を送れるようになります。帝国の軍事力が帝国の豊かさを生み出している、と言えます。

帝国には終わりがない?

帝国の全盛期には、その首都はこれ以上並ぶ都市がないくらいに栄華を極めます。都市には大勢の人が行き交い、周辺の土地の沢山の人と物を集め、繁栄には終わりがないように見えます。

しかし、必ずといっていいほど帝国は滅亡します。帝国の崩壊の様子にも一定の決まり、規則性がありそうです。ではこれから、帝国が崩壊する決まり、パターンを考えてみましょう。

この記事では、帝国がなぜ文明を利用するのか、また帝国が文明を支え、保護する様子も見ました。

次の記事では、栄華を極め、終わりがないように見える帝国がなぜ崩壊するのかを見ていきましょう。

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