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帝国と経済、商業体制、そして法律の役割-商人との関わりと再分配の機能

(第1章7/12)

今回は第1章の7回目(全12回)。これまで、歴史を知る重要な3つのキーワードの最後のキーワード「帝国」について学びました。帝国は強大な軍事力と王に仕える役人の組織、官僚機構によって広大な領土を統治しました。

この記事では、帝国を別の形で支えた商人たちについて考えます。

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古代オリエント史第1回:古代オリエント文明の概観

1.3.3 帝国と経済、商業体制、そして法律の役割-商人との関わりと再分配の機能

タイトルが難しい感じですね。「再分配」という言葉を使いました。帝国の中でのお金の流れを説明するのにどうしてもこの言葉が必要になります。もちろんこの意味は後で説明します。

ここでは帝国におけるお金の流れについて説明します。帝国の領土の中でお金をうまく回らせること、そして帝国の政府へとお金を集め、政府がそれを有効に消費すること(消費とはお金を使うこと、と考えて構いません)、これが帝国の勢力を保つ上で欠かせません。また商業を活発にするために帝国が法律を整えたことも説明します。法律は商売での取引、つまり商取引をスムーズにするために生まれました。

商人とお金、物の流れ

帝国のお金の流れについて、まずは商人との関係を見てみます。

ところでいきなりの質問ですが、商人はどうやってお金を儲けているのでしょうか?そんなに難しく考えないでください。

商売、商いの基本は、ある品物を安く買えるところで買って、高く売れるところで売ることです。

同じ品物でも、安く買える場所ではその物は余っています。逆に高く売れる場所ではその物はあまり出回っておらず、貴重です。

別の見方をするとこう説明出来ます。物が余っている場所では、その物を売りたくて仕方がありません。逆に物が少ない場所では買いたい人が多いでしょう。

つまり、商人は売りたい側の人間(または地域)と買いたい側の人間の間に立って、売りたい側から買いたい側へと商品を流している、流通させる役割を担っています。

インフラ(都市基盤)とは?

このような商業を活発にするためにもネットワークは欠かせません。人が行き交う中心となる道路を整備して商品の流通を容易に(簡単に)し、また領土の隅々まで道路を行き渡らせること、このような道路のネットワークは商業を活発にします

ちなみに道路や水道(上水道)、汚れた水を排出する下水道、電力を作る発電所やそれを送る送電線など、人々の生活に欠かせない設備のことを都市基盤(またはインフラストラクチュア(infrastructure)、略してインフラ)と言います。また政府がこの都市基盤、インフラを新たに作り、整備することを公共事業と言います。

この公共事業も帝国政府の役割です。そこで商業を活発にさせて商人から税金を取り、それを領土の整備にてて国民がより生活しやすいようにしました。

再分配=公共事業でお金を国民に戻すこと

また領土のインフラの整備のためには多くの国民の協力を得なければなりません。昔は奴隷を使っていましたが、それでも帝国政府が税金として集めたお金はまた国民に戻されます。こうして商業とは別のお金の流れが生まれます。

こういった政府を中心としたお金の流れを政府の再分配機能、と言います。これは国民から税金として集めたお金を公共事業、インフラの整備のために使うことによって国民にまたお金を戻すことです。特に自分の土地を持たず、貧しくて仕事がない人たちに公共事業によって仕事を与えることが必要でした。

とはいえ、帝国は強大な軍事力によって広い領土をまとめ上げています。ですから税金の大部分は軍隊を維持するために使われました。

しかし、強大な軍が帝国の領土を守ってくれるおかげで商人たちは安心して商売が出来ます。こうして商業を通した交流がより活発になります。

さて、今度は別の視点で帝国と商人の関係を考えてみましょう。ここでは商取引を円滑に、スムーズに行えるように法律が作られた点を考えます。

法律を作って商取引がスムーズに

帝国政府は領土の中で商業が活発であればいいと願い、商人を保護します。その手段の一つとして法律があります。法律といいますと、罪を犯した人に罰を与える、というイメージが強いですが、同時に商取引のルールを定めるために法律が作られました。ちなみに罪人に罰を与える法律は刑法、商取引のルールを定めた法律は商法と呼びます。現在の日本でもこの2つは重要な法律です。

帝国の領土の中で、どこでも商取引のルールが同じならば、安心して商売が出来、商業はより活発になります。商業が活発になればより多くの税金が取れます。こう考えますと法律も帝国が作る一つのインフラ、都市基盤と言えます。つまり、法律という商取引を円滑にするルールを活用して商人は商いが出来るのです。

この記事では違った見方で帝国について考えました。帝国と商人との関係です。帝国は領土の中の商業が活発になることを期待し、そのために公共事業を行ってネットワークを整備し(公共事業によって国民に税金を戻すことを再分配と言いました)、また商業のルールを定めた法律(商法)を作って商取引をしやすくしました。

次の記事では、最後に帝国と文明の関係を考えてみましょう。ここまで読めたなら、次のかなり高度な解説も付いていけるでしょう。

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