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メソポタミア文明の概要と語族について

(第2章2/15)

今回は古代オリエント文明の2回目(全15回)。前の記事では古代オリエント文明の2つの文明、メソポタミア文明と古代エジプト文明の概要を説明しました。

この記事から、メソポタミア文明の説明に入ります。最初はメソポタミア文明の大まかな要点、概要について説明します。現役の高校生の皆様はこの記事の内容を押さえるだけでも中間、期末テストの得点アップが狙えます。テストの直前対策にご活用ください。(メソポタミア文明の概要はこちら

2.2 メソポタミア文明

2.2.1 メソポタミア文明の概要

メソポタミア文明を解説する時に必ず出て来るキーワードがあります。それは「語族」という言葉です。メソポタミア文明の要点を説明する前に、まずこの語族について説明します。

メソポタミア文明の概要の解説はこちらになります。中間、期末テスト対策にこちらをご活用ください。)

2.2.1.1 「語族」という民族の分け方

民族の分け方にはいろいろとありますが、それぞれの民族が話す言語のパターンによって分ける方法があります。このように言語の特徴をもとにして分けられた民族の集まりを語族といいます。

語族とは?

例えば、英語では「持っている」「与える(あげる)」という動詞はそれぞれhaveハブgiveギブですが、ドイツ語ではhabenハーベンgebenゲーベンとなります。他にも英語とドイツ語では発音とつづりが似ている単語がありますが、英語とドイツ語の始まり、起源は一緒だろう、と考えられます。ならば同じような単語がある、または言語のパターンが似ているような民族をまとめてみると新たな発見がありそうです。同じような言語を使っている民族をまとめて語族と言います。こうして語族によって民族を分ける考え方が生まれました。

現在では語族は主に3つに分けられています。その3つとは、インド=ヨーロッパ語族、アフロ=アジア語族、そしてウラル=アルタイ語族です。

ちなみに日本語と朝鮮語(韓国語)はウラル=アルタイ語族に含まれると言われていますが、反論も多く、確定した説ではありません。

オリエント文明で出て来る語族は2つ

古代オリエント文明の歴史においては、アフロ=アジア語族の中のセム語系の民族と、インド=ヨーロッパ語族の民族が出てきます。セム語系の民族は、最初にメソポタミアを統一したアッカド人と、その後にメソポタミアを統一したアムル人がいます。セム語系の民族は他には、紀元前1200年以降に勢力を伸ばしたアラム人、フェニキア人、ヘブライ人がいます。次にインド=ヨーロッパ語族の民族は後ほど出てきますが、戦車戦術によってメソポタミア、シリアを制覇したヒッタイト人、「最初の世界帝国」アケメネス朝を築いたイラン人がいます。

さて、アッカド人とアムル人は、どちらもセム語系の民族でした。セム語系というのは、上に挙げた3つの語族の一つ、アフロ=アジア語族をさらに細かくした中の一つです。アフロ=アジア語族はさらにセム語系とエジプト語系(ハム語系)に分けられます。

このセム語系とエジプト語系(ハム語系)を説明するには、この呼び名の元となっている、旧約聖書に出て来るノアの洪水伝説について説明しなければなりません。これから少しその洪水伝説を説明します。

ノアの洪水伝説

聖書で最初に造られた人間をアダムといいます。アダムの子孫が増えますが、その中の大勢の者が神に逆らうようになります。そこで神は地上に大雨を降らせ、洪水を起こし、人類を滅ぼすことを決意します。

しかし、ただ一人神に従順に従う者がいました。その名をノアと言います。神はノアに箱舟を作るようにと言いました。箱舟とは丸太を組んで作った四角い大きな箱のようなもので、そこにノアとその家族、さらにいくつかの動物たちを入れました。

未だかつてない洪水の後、雨が止み、ノアの箱舟は黒海の東側のアララト山という山に着きます。

ノアには3人の息子がいました。名前をセム、ハム、ヤペテといいます。洪水の後、セムは南に行き中東(シリアからイランの辺り)に落ち着き、ハムはアフリカに行き、ヤペテは北に行った、と言われています。

実際にはこの3人がどこへ向かったのか、聖書には書かれていません。あくまで言い伝えです。またハムは肌の色が黒かった、という話が作られ、それが黒人の差別を正当化するために使われました。

中東からアフリカにかけて広まった言語を話す民族はアフロ=アジア語族として、語族によってまとめられました。アフロ=アジア語族はさらにノアの息子セムとハムが移動したと思われる地方によって分けられました。中東に広がった語族の方をセム語系、アフリカ北部に広がった語族の方をハム語系と呼びます。

セム語系の言語で現在主に使われている言語はヘブライ語アラビア語になります。

では、語族の説明が終わったところで、これからメソポタミア文明の概要を説明します。

2.2.1.2 メソポタミア文明の概要

メソポタミア文明は最初、現在のイラク、シリアを流れる2つの川、ティグリス川とユーフラテス川の周辺に生まれました。

紀元前3000年から2700年の間に、この地域にシュメール人が幾つかの都市国家を作りました。都市国家の各都市は城壁で囲まれ、都市の中心にはジックラドと呼ばれる、神を祀る塔があります。このような遺跡から、シュメール人の都市国家は地域の神々の権威を借りて民を治める、神権政治が行われていたことが分かります。また城壁があることから、都市国家同士の争いが絶えなかったことも分かります。

シュメール人の都市国家が争いを繰り返す中、セム語系アッカド人がメソポタミアに移動し、紀元前24世紀(紀元前2300年代)にメソポタミアの都市国家を統一します。

次にシリアより同じセム語系の遊牧民のアムル人がメソポタミアに侵入します。アムル人たちは紀元前19世紀(前1800年代)にユーフラテス川沿いの都市バビロンを都とする古バビロニア王国(バビロン第1王朝)を立てます。第6代目の王ハンムラビは王国をまとめるために文章にまとめられた法律(成文法)、ハンムラビ法典を作ります。

同じ頃に、中東の地域を揺るがす出来事が起きます。戦車戦術を使って北の方角から下って来た民族が猛威を振るいます。

インド=ヨーロッパ語族ヒッタイト人は、紀元前19世紀(前1800年代)に小アジアのアナトリア高原に移動しました。ヒッタイト人はここで先住民たちを従えてヒッタイト王国を建てました。ヒッタイト人は紀元前1600年頃に古バビロニア王国を滅ぼします。またヒッタイト人はシリアを支配します。そこで南よりシリアに勢力を伸ばしたエジプト新王国と戦争になります(カデシュの戦い)。

古バビロニア王国が滅びた後、紀元前1200年までの400年間メソポタミアはカッシートミタンニ王国という2つの王国が支配します。

次に紀元前1200年頃より、東地中海地方に民族大移動の大混乱が起き、中東を脅かします。

この時西側から東地中海へと侵入したいくつかの民族がいました。これらをまとめて「海の民」と呼びます。

この混乱の後、東地中海地方に3つのセム語系の民族が勢力を伸ばします。それはアラム人フェニキア人、そしてヘブライ人(イスラエル人)です。アラム人とフェニキア人は商業活動を活発に行います。そのためアラム語はオリエント地方に広まり、後にアケメネス朝の公用語として用いられたほどです。またフェニキア人が使った表音文字フェニキア文字はギリシア文字に受け継がれ、アルファベットの起源となりました。

ヘブライ人は大きな領土を治めた民族ではありませんが、後にユダヤ教という一神教を興し、それはキリスト教、イスラームに繋がります。やがてイスラエルユダという2つの王国に分かれ、イスラエルはアッシリアに、ユダは新バビロニア王国に滅ぼされます。

やがて、オリエントの広大な領土を支配する帝国が現れます。ミタンニ王国から独立したアッシリアです。

アッシリアは征服した土地を厳しく、過酷に支配します。そのためアッシリアの支配は長くは続かず、4つの王国に分かれます。その4つとは、西からリディア王国、エジプト、新バビロニア王国、そしてメディア王国です。この4つの中から新バビロニア王国が勢力を伸ばします。この王国はユダ王国を滅ぼし、その民を都のバビロンへ連れ去った(バビロン捕囚)ことで有名です。

今度はメディア王国から独立したアケメネス朝が勢力を増し、新バビロニア王国を滅ぼします。アケメネス朝はアッシリアよりも緩い統治を行い、200年もの間オリエント全体を支配しました。

アケメネス朝は紀元前330年、マケドニア(ギリシアを統一した国家)のアレクサンドロス3世の大遠征によって滅ぼされます。

この記事では、最初にメソポタミア文明を説明する上で欠かせない「語族」という言葉を解説しました。次にメソポタミア文明の概要を説明しました。

次の記事からメソポタミア文明の具体的な解説に入ります。まずはティグリス川、ユーフラテス川沿いに都市国家を作ったシュメール人からです。

この記事のまとめ(語族について)

  • 同じような言語を使っている民族をまとめて語族と呼ぶ
  • メソポタミア文明で出て来る語族は2つ、インド=ヨーロッパ語族とアフロ=アジア語族の中のセム語系
  • インド=ヨーロッパ語族の民族はヒッタイト人とイラン人
  • セム語系の民族はアッカド人、アムル人、アラム人、フェニキア人、ヘブライ人

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