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はじめに-歴史のポリフォニーとは?(2/3)

0.2 歴史のポリフォニーとは?

前の記事では、「なぜ歴史を学ぶのか」という疑問の一つの答えをお伝えしました。

今回は、このサイトのタイトル「歴史のポリフォニー(Polyphony of History)」の「ポリフォニー」について説明をします。

ポリフォニーを知り、それを歴史と結び付ける上で大切な要点は2つあります。1つ目は2つ以上のメロディー(旋律)が同時に動く、ということ。もう一つは、決まった旋律、メロディーは繰り返し演奏される、ということです。また2つ目のポイントについては、音楽を底辺で支える役割を果たす「通奏低音」、についても説明します。

0.2.1 ポリフォニーとは何か?

ではまず、ポリフォニーの意味を説明します。

ポリフォニーとは音楽用語で、2つ以上の旋律が同時に動くことです。ただ、大勢の人が好き勝手に弾きたい旋律を弾いても、それはただの雑音にしかなりません。大切なことはいくつもの旋律が奏でられて、それが心地いい響きとなることです。そこでポリフォニーには、心地いい響きを生み出す決まりが必要です。その決まりの役割を果たすのが和音(コード)です。心地いい響きが生まれる時、そこには和音という音楽の土台があります。

ここで和音を土台として2つ以上の旋律が同時に演奏される例を挙げます。

ムソルグスキーというロシアの作曲家の「展覧会の絵」の第1曲目の「プロムナード」です。オリジナルはピアノの曲ですが、これをラヴェルという作曲家がオーケストラのバージョンに編曲した曲が有名です。

ピアノ曲の楽譜はこうなっています(最初の2小節)。

展覧会の絵、ピアノ独奏

右手はひたすら和音を弾いている感じです。音符の数を数えると、右手は常に3つの音を弾き、左手は音が2つありますが、これは1オクターブの音程なので、1つの音と数えていいでしょう。合計4つの音が同時に鳴っています。ちなみに、ラヴェル編曲のオーケストラバージョンでは、上の3つの音はそれぞれ3台のトランペットが演奏しています。

さて、この4つの音を上から順に分けて、それを横につなげてみましょう。こんな風に分かれます。

展覧会の絵、4パート

いちばん上の譜面(ソプラノ)で演奏されるのがメインのメロディー(主旋律)というのは分かりますが、2番目から4番目の譜面、これも立派な旋律です。つまり4つの旋律が和音を通して1つの音楽に結び付けられています

重要なメロディーは繰り返す

ポリフォニーにはもう一つの重要な要素があります。それは決まった旋律が繰り返し演奏されることです。何度も演奏される旋律のことをテーマ(主題)、またはモチーフ(動機)といいます。テーマとモチーフを比べると、テーマの方は4小節から8小節ぐらいの一定の長さがありますが、モチーフの方は1小節(3拍または4拍)、さらに短くて2拍もあります。

いちばん有名なモチーフといえば「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」で始まるベートーベンの「運命」(交響曲第5番)でしょう。

余りに有名ないちばん最初の旋律は楽譜(ピアノ譜)にするとこうなります。

運命のオープニング

続けて聞くと分かりますが、「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」の後も「ズ・チャ・チャ・チャ」と4拍の決まった形が繰り返されます。

運命の続く部分

この「運命」については家のドアを4回ノックする音を聞いて曲が出来た、なんて話がありますが、それが本当かは別として、4つの音の繰り返しをひたすらつなげて曲が作られています。

低音の旋律をひたすら繰り返す場合-通奏低音

さてここで旋律の繰り返しというポイントから一歩進んで、決まって繰り返される低音の旋律である「通奏低音」について説明します。

論より証拠、というか百聞は一見に如かずというか、まずは代表的な曲をお聴きいただきましょう。

「パッヘルベルのカノン」という曲です。実際に聴いてみると「どこかで聴いたことある」と思っていただけるはずです。

最初に左手で低音の旋律が演奏されます。これは下の譜面の旋律です。

パッヘルベルのカノンの左手

この決まった低音の旋律に乗せて、右手でメロディが次々と奏でられます。低音の旋律はひたすら同じ旋律の繰り返しです。

ところで本サイトでは、時代を追っての歴史の解説に加えて、どの時代、どの地域でも共通して見られる現象については「歴史の通奏低音」というコラムで解説します。このコラムを通して、時代や地域を超えた歴史の大きな流れ、法則をつかんでください。

繰り返しますが、ポリフォニーには2つのポイントがありました。1つは2つ以上の旋律が同時に演奏されること、もう一つは決まった旋律が繰り返し演奏されることでした。ところで、この2つのポイントは歴史とどう関係があるのでしょうか?この点をこれから説明します。

0.2.2 歴史とポリフォニーとの関係。「歴史のポリフォニー」とは?

離れた国や地域が関わり合っている

1つ目のポイントですが、世界史においては、離れた国や地域で起きている出来事が密接に結びついています。なぜならばどの国や地域も周りとの関係がなくては国を保つことが出来ないからです。ですから歴史(世界史)を学ぶことは、その様々な国や地域の関係を知ることだ、と言っていいくらいです。

歴史はいくつもの国や地域の歴史、出来事の連なりがお互いに関係し合いながら進みます。これがポリフォニーの1つ目のポイント、2つ以上の旋律が同時に演奏される、という点と関わっています。

ポリフォニーではいくつもの旋律は心地いい響きの土台、つまり和音によって結ばれていました。ではいくつもの国や地域の歴史は何で結ばれているのでしょうか

それが歴史を動かす決まり、法則と言えます。また何によって歴史が動いていくのか、という考えが歴史の見方、つまり歴史観を作ります。

歴史も繰り返す

次に2つ目のポイント、決まった旋律が繰り返し演奏される、という点と歴史との関係を説明します。

歴史の中では、国や時代が違っても同じような現象が起きます。「歴史は繰り返す」ということわざがありますが、この繰り返される出来事が重要です。

繰り返す出来事は今の私たちにとっても大切です。なぜなら、繰り返す出来事は私たちが生きる現在でも起きるからです。

また国や時代が違っても繰り返す出来事を結び付けて考えられるようになると、何千年もの歴史をうまくまとめることが出来ます。ですから繰り返す出来事に注目すべきです。

この記事では音楽の土台ともいえる「ポリフォニー」と歴史との関係について説明しました。2つ以上の旋律が同時に動く、という点と、決まった旋律は繰り返される、という2つのポイントがありました。

次の記事では本サイトが採用する歴史の見方、「ネットワーク歴史観(史観)」について説明します。世界が一つになっていく道のり、という歴史のテーマをイメージしながら読んでみてください。

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